聴き比べ⇒志ん生 今戸の狐
⇒十代目馬生 今戸の狐
あらすじ
江戸の中橋に名人初代三笑亭可楽が住んでいた。その門下に若い二つ目の良助がいた。
寄席の上がりだけでは生活が出来ない上に、通い弟子なので暮らしに困りはてていた。
師匠は厳しく内職を禁じていたので、芸人の見栄もあるために、我慢をしていた。
良助は橋場に住み、向かいの背負い小間物屋善吉の女房おサイさんは、千住の女郎上がりの女だが、出身にも似ず働き者で近所の評判もよく、千住(せんじゅ=コツ)の妻(サイ)と愛称されていた。
コツのサイさんは今戸焼の狐の彩色の内職をやっていた。
教えを請うと親切に教えてくれた。良助も器用だったので直ぐ習得して、雨戸を閉めて人目を避け、引き窓からの明かりを頼りに狐を作った。
朝 、師匠の家へ行って用をたして帰り、夕方寄席へ出かけるまでの間、せっせと内職をした。
当時、可楽は飛ぶ鳥を落とす勢いで人気が出ていた。可楽が出ると周りの寄席の客足が途絶えるほどであった。
寄席がはねると弟子が売り上げをもって中橋の可楽の家まで持って帰り、各出演者に小分けするのが仕事の一つであった。
それが何軒も掛け持ち出演しているので、小銭の配分に手間が掛かった。
誰それさんいくらとの声で、前座が「はい」チャリチャリンと分けていった。この音が夜更けて来ると響いた。
ある夜、雨宿りで軒先に立ち寄ったやくざが、この銭の音を聞きつけた。
この音をサイコロの狐をご開帳とにらんで、翌朝可楽の家に乗り込んだ。
可楽に対し、素人が博打を打つとは不届きだが、見逃してやるから口止め料を出せとゆする。
可楽は私は博打が大嫌いで、それは何かのお間違いでしょう、弟子にも厳禁している、とんだお門違いだ、帰ってくれと、奥へ入ってしまう。
怒ったやくざは、狐ができていることはさぐってあるのだと、内弟子にすごむ。
三つ賽博打の狐のことを、焼き物の狐と勘違いした内弟子は、それなら橋場でこしらえていると、良助の住まいを教える。
「だったら少しはこさえてくれるな」
「勿論ですとも」
「夕方まで待つか」
「いえ、朝からやっています」。
やくざに訪ねてこられた良助は、大慌わてで人形や道具を隠して迎え入れ、その慌てぶりにヤクザは賭場が開かれているのを確信する。
狐などできていないと否定するが、内弟子に聞いてきたといわれて、やむなく肯定する。
「やはり狐(三つ賽博打)ができている(賭場が開かれている)」と安心するやくざ。
「それだったら、時々寄るから、少しこさえてくれ(金の無心をする)」
「少しでは困るんです。(注文は)多い方がいいので」 と良助
「それは有り難てぇ~」。
「で、出来はどうだい」
「最近やっと顔が揃うようになりました」
「そうかい、顔が揃う(上客の顔ぶれが揃う)ようになれば後は楽だ」。
「(博打の規模が)大きいのか」
「え……、 (狐の)大きいのも小さいのもあります」。
「金張り銀張り(の狐)が有ります」
「え~、それは(高額の賭けで)豪儀だ」。
「今、静かだが(賭場が)出来ているのか」
「出来てます」
「どこで」
「戸棚の中に」
「??」。
「ちょっと見せてもらおうか。ぶち壊す(賭場を荒らす)ようなことはしないから」
「壊されたら困ります」。
「お見せします。こちらが大きいの。こちらが小さいのです。これが金張りでこちらが銀張りです」
「なんだこれは」、「だから狐です」
「馬鹿野郎、狐は分かっていらぁ。泥の狐を探しにこんな所まで来たんじゃねぇや。俺の言っているのは骨(こつ)の采(さい)だ」。
「千住(コツ)の妻(サイ)はお向かいのおかみさんでございます」。
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