あらすじ
遊びに行きたい連中が集まったが、遊びにと言っても裏の公園にブランコ乗りに行くのではない。
吉原だから金がかかり、行きたいのに金が無い。
スポンサーに伊勢屋の若旦那が候補に挙がったが、キザでイヤだというが……
そこに伊勢屋の若旦那が通りかかった。
「若旦那よってらっしゃいよ」
「こんつわ」
「ま、一服なさいよ」
「ちょと、いつふくやるかね」
座布団を出して下にも置かない体制を敷いた。
「女湯では大評判」だと持ち上げ、
「女の子がほっておかない顔だよ」と二の矢を放ち
「昨夜はご自宅でお休みではないでしょ」と持ち上げ
「昨夜はロウに行きました」
「若旦那は牢に行ったんだって、小菅ですか」
「ロウとは青楼のことで、廓(くるわ)で遊んだ」。
「どんな具合でした」
「昨夜2時半頃、婦人が起き上がって『そんなに眠いのは前の晩に夜通し起きていたからでしょ』と、カンザシ抜いて私の鼻の中に入れかき回した。痛かった」
「それは痛かっただろう」
「それから3時頃には、みぞおちのところを肘でグリグリとされたが、これも痛かった」
「急所だね」
「夜の明ける頃に、喉笛に」
「化け物だね」。
「そんなにモテるところを見てみたいもんだ。お供させて下さいよ」と、ねだった。そのかわり我々は芸人が揃っているので退屈させない。しゃっちょこだちや鼻からうどんを食う。「あまり良い芸では無いな。私は一中ですな」
「越中ですか。昔はみんな締めたんだが最近は……」
「越中ふんどしではなく、一中で河東を知っていますか」
「加藤さんなら床屋の親父です」。
「せっかくだからご同伴を願うか」
「ご同伴は落っこどしちゃった」
「品物ではなく、一緒に行くことで……」
「ではお願いします」
「今回は生花の朋友と言うことですから羽織が無ければいけません」。
と言うことで、まちまちの羽織を着込んで集まった。熊だけは無いので勘弁してくれと頼んだが、ダメだときっぱりと断られた。
あわてた熊は差配のところに借りに行ったが、あいにく出掛けて留守であった。
「出掛けたのなら羽織を着ていったでしょ。それではもう、羽織は無いでしょ」
奥様
「失礼ね。他にも何枚か有るわよ」。
「では、見せてください。へ~、何枚も有るんですね。これは紋付きで、紋はウワバミですね」
「そんな紋は無いよ。カタバミだよ」
「チョッと掛けさせてください。……紋付きはダメだ。落語家みたいで。これは、」
「結城だよ」
「さっき仲間が着てたやつだ。アッシが着てどうです」
「職人には嫌みが無くて良いよ」
「どうだい」
「案外粋になるね。家の人と同じでぴったり似合うよ」
「さようなら」
「おいおい、貸すとも何とも言っていないよ」
「貸してください。今夜、女郎(じょうろ)買いに吉原に行くんで、私だけ無いと行けないんです。一晩だから」
「ダメだよ。脱いで。吉原に行ったと言えば私が叱られる。祝儀不祝儀なら貸さないでもない」
「そう不祝儀です」
「誰が死んだんだね」
「あの~、あの……、小間物屋の藤兵衛さん」
「いつ?」
「明け方」
「おかしいね。先程、荷を背負って家の前を通ったよ」
「しょうがない爺(じじい)だな。死んだことを忘れたんだな」
「誰なんだい」
「間違えちゃった。爺でなく、婆(ばばあ)だ。長屋の糊屋の婆ですよ」
「大きな声出すんじゃないよ。今、二階で仕事をしているよ」
「えぇ、二階で」
「ホントは誰が死んだんだよ」
「その内、誰かが死にましょう」。ヒドいヤツが居るもんです。
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