口入屋(くちいれや)は、上方落語の演目の一つ。
東京でも「引越の夢」という題で演じられる。
原話は、寛政元年(1789年)に出版された「御祓川」の一編である「壬生の開帳」。
あらすじ
船場にあるとある大店に、口入屋(現在の職業紹介所)から絶世の美女が女中奉公にやってくる。
この店には若い者が多いため、間違いが起きぬようにと言う店の方針で、今まで来ていたのは変な顔の女中ばかり。
とうとう堪え切れなくなった一番番頭が、女中を頼みにいく役を仰せつかっている丁稚の定吉を買収し、美女が来るように仕組んだのだ。
さて、絶世の美女がやってきたおかげで店中が大興奮。
特に張り切った一番番頭の手回しでその日は早仕舞になる。
その夜、みんなが寝静まったのをみはからい、二番番頭が起きだして下女部屋に忍び込もうとした。
ところが、そんな事態を想定していたおかみさんの一存で梯子は二階に引き上げられている。
困った彼は、一階と二階を貫いている膳棚を梯子代わりにすることを思いついたが、壊れていたのか手をかけた途端に棚が崩れ落ち、二番番頭は棚を肩で支える羽目になってしまった。
しばらくして、今度は一番番頭が起きだしてくる。
やはり梯子が無いため膳棚を足掛かりにしようとし、二番番頭と同様に棚を担ぐ羽目になってしまった。
またしばらくして、今度は手代が起きだしてくる。
梯子が無いのを確認した彼は、天窓のひもを伝って二階へ上がっていくことを思いついたが、彼がぶら下がった途端に紐が切れ、手代は井戸の中へ落ちてしまった。
三者三様で困っていると、騒ぎを聞きつけたおかみさんが灯りを持ってやってくる。
困った二人の番頭は、棚を担いだままタヌキ寝入りをすることに…。
「あらあら、何をやっているの?」「引っ越しの夢を見ておりました…」
概要
上方落語の大ネタ。
口入屋で定吉が暴走する序盤や、女中の素性をおかみが質問する中盤。
夜這いが失敗し、立ったままいびきをかく羽目になる終盤など見所・聴きどころが多い。
原話は、褌一丁で棚を担ぐ羽目となった二人組をみつけ、おかみが「薬屋の看板みたい」と嫌味を言う物で、当時の看板が薬名を書いたものを裸の男が二人で担いでいるデザインだったことに由来している。
近年ではそのオチがわかりにくくなったため、「引っ越しの夢を見ていた」と言い訳をする形に変わった。
ちなみに、夜這いをみつかって変な言い訳をする件は、『東海道中膝栗毛』等にも見られている。
なお、東京での題が「引越の夢」となっているのは、東京では口入屋でのやり取りが入らない(従って美人の女中が奉公に上がるのは全くの偶然)ためである。
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