あらすじ
八五郎の家では、大晦日だというのに夫婦喧嘩をしている。
隣近所では餅つきの音もにぎやかに、正月の支度を整えているのに、八の家では貧乏所帯ゆえにその準備ができないのだ。
「長屋の手前、餅つきの音だけでも聞かせてほしいんだよ」
「って言われてもなぁ…。ん?」
自棄になった八公の頭に、とんでもない案がひらめいた。
「何とかしてやろうじゃないの。その代わり…何をやっても文句を言うなよ…?」
いよいよ夜がやってきた。八公は子供が寝たのを見計らい、そっと外に出て、聞こえよがしに大声で…。
「ォホン。『えー、餅屋でございます。八五郎さんのお宅は…ここですな!』」
芝居の効果音よろしく、餅屋が来たところから餅をつく場面にいたるまで、あらゆる場面を【音】だけで再現しようというのだ。
「家に上がってこの屋の主だ。『オー、餅屋さん、ご苦労様』。餅屋に戻って『ご祝儀ですか。えー、親方、毎度ありがとうございます』…」
子供にお世辞を言ったりする場面まで、一人二役で大奮闘。
「餅屋になって『そろそろお餅をつきますので』…おっかあ、臼を出せ」
「そんなもの無いわよ」
「お前のお尻だよ。お尻を出せ!」
かみさんのお尻を引っぱたけば、ペタペタ音がして餅をついている様に聞こえる…それが八五郎のアイディアなのだ。
「餅屋になって、『臼をここへ据えて…始めます』…白いお尻だな」
「何を言ってるんだい!?」
いやがるかみさんに着物をまくらせ、手に水をつけて尻をペッタン、ペッタン…。
「コラショ、ヨイショ…そらヨイヨイヨイ! アラヨ、コラヨ…」
そのうち、かみさんの尻は真っ赤になった。
「『そろそろつき上がりですね。じゃあ、こっちに空けますね』…餅を代えたつもり、と。次は二うす目だ」
たまりかねた女房が、「餠屋さん、あと幾臼あるの?」
「『へぇ。後、ふた臼位でしょうか』」
「おまえさん、餠屋さんに頼んで、あとの二臼はおこわにしてもらっとくれ」
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