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2026年5月27日(水):初投稿
動画(桂歌丸)
動画(柳家小三治)
お茶汲み(おちゃくみ)とはどんな噺か
「お茶汲み」(おちゃくみ)は江戸落語の廓噺。別題は「茶汲み」「女郎の茶」。上方では「黒玉つぶし」、改作版に「涙の茶」がある。吉原最下級の小見世を舞台に、花魁のうそ泣きと客の仕返しが交差するだまし合いの滑稽噺で、オチは仕込みオチ。五代目古今亭志ん生・三代目古今亭志ん朝が得意とし、桂歌丸・十代目柳家小三治も高く評価された現役の人気演目。
1941年(昭和16年)10月30日、禁演落語53演目の一つとして浅草のはなし塚に葬られた。1946年(昭和21年)9月30日の「禁演落語復活祭」で解禁後、五代目志ん生が初代柳家小せんの直伝を継承して復活させ、現在まで演じ継がれている。
あらすじ
吉原から朝帰りした松つぁんが、仲間に昨夜のノロケ話をしている。お引け前のサービスタイムで七十銭ポッキリと聞き、上がったのが「安大黒」という小見世。額の抜け上がった目の細い花魁を指名したところ、女は松つぁんの顔を見るなり「アレーッ」と金切り声を上げて外へ飛び出した。
戻ってきた紫という花魁が、涙ながらに身の上話を語り始める。静岡の在(いなか)の出身で、近所の清三郎という男と恋仲になり、噂になって在所にいられなくなった。親の金を盗んで男と東京へ逃げてきたが、やがて金が尽き、相談の上で自分が吉原に身を売り、清さんはその金を元手に商売を始めた。しばらくは手紙のやり取りが続いたが、そのうちパッタリ音沙汰がなくなった。人をやって聞けば、病気で明日をも知れないとのこと。苦界の身では看病にも行けず、一生懸命に神仏に祈ったが甲斐もなく、清さんはとうとうあの世の人になってしまった。毎日泣きの涙で暮らしていたが、今日障子を開けると清さんに瓜二つの人が立っていたので、思わず声を上げてしまった——。
「もうあの人のことは思い切るから、年季が明けたらおかみさんにしておくれでないか」と花魁がかき口説くうちに、松つぁんがふと顔を見ると、目の下に黒いホクロができていた。よく眺めると、涙の代わりに指先に茶をつけて目のふちになすりつけ、その茶殻がついていたのである。
これを聞いた勝さんが「ひとつその女をやり込めてやる」と「安大黒」へ乗り込み、紫花魁を指名した。女の顔を見るなりウワッと叫んで飛び出した勝さん、戻ってきて涙声で語り始める。
「おらあ静岡の在の者だが、近所のお清という娘と深い仲になり、噂になって在所にいられず、親の金を盗んで東京へ逃げてきた。そのうち金も使い果たし、どうにもならないのでお清が吉原へ身を売り、その金を元手に俺が商売を始めた。手紙を出すたびに優しい返事が来ていたのに——」
勝さんが涙声になったところで、花魁が言った。
「待っといで。今、お茶をくんでくるから」
これがサゲ。次の偽り涙の仕込みのために席を立つ花魁の行動が、そのまま演目名になっている。
解説
「お茶汲み」の笑いの核心は、花魁のうそ泣きの手口が暴露された後で、今度は客が同じ手口で仕返しを試みるが、花魁には先手を読まれているという構造にある。「待っといで、今お茶をくんでくるから」という一言が、仕込みオチとして完結している。
舞台の「安大黒」は吉原でも最下級の小見世。お引け前(午後10時以降)のサービスタイムに値切って七十銭での登楼とあり、当時の大見世の最低揚げ代が三円だったことを考えると、この値段の安さがいかに底辺の店かを示している。腐っても吉原の女郎は「花魁」と呼ばれるが、この小見世での「花魁」の商売技術は、同じ吉原でも格の低さに見合ったものだった。
原作は大蔵流の狂言「墨塗」。主人の愛人が水を目蓋にこすりつけてうそ泣きするのを太郎冠者が見抜き、水と墨をすり替えて顔を真っ黒にするという話だ。これが安永3年(1774)刊の笑話本『軽口五色帋(かるくちごしきがみ)』の小咄「墨ぬり」に受け継がれ、上方落語「黒玉つぶし」を経て、墨を茶殻に代えた「涙の茶」へと展開した。これを初代柳家小せん(鈴木万次郎・1883〜1919)が明治末期に東京に移植し、廓噺として仕立て直したのが現行の「お茶汲み」である。
うそ泣きに茶を使う技法は、実は落語にとどまらず古い。歌舞伎「義経千本桜」の「鮨屋」で小悪党いがみの権太が母親から金をせびり取る場面でも、五代目尾上菊五郎以来の音羽屋の型として同じ手が使われている。さらに平安時代の「平中物語」にまで類話が遡るという。
主な演者
初代柳家小せんは廓噺の名手で、過度の廓通いが祟って失明・足が立たなくなったといわれ、妻に背負われて楽屋入りし板付きで高座を務めたという。
五代目古今亭志ん生はその小せんから直伝でこの噺を継承した。志ん生版は小せんの演出のうち現代の客には伝わらない部分を省き、粋に仕上げたもので、貴重な音源はポニーキャニオンとソニー・ミュージックハウスの志ん生全集にのみ収録されている。
三代目古今亭志ん朝のCDが現在の定番で、志ん生を超えるとも評される。桂歌丸、十代目柳家小三治の音源も残されており、小三治版が特に高く評価されている。
関連演目
同じ禁演落語53演目の廓噺として、文違い・明烏・五人廻し・付き馬が代表格として知られる。だまし合いを軸にした廓噺という点では文違いと並ぶ構造を持つが、「お茶汲み」はより軽快な滑稽噺として演者を問わず現代の寄席で頻繁に取り上げられる演目である。
文責:ライターズラボ編集部(2026年5月27日(水)執筆)


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