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ハンタウイルスとは何か——ネズミが運ぶ「まれだが重い感染症」を正しく知る

雑学・豆知識

ハンタウイルスは人から人へうつるのか?感染経路・症状・予防策を整理する

ハンタウイルスは、名前だけ聞くと新しい感染症のように見えるかもしれない。だが実際には、以前から知られているウイルス群である。

問題は、感染する機会は多くない一方で、発症すると重症化することがある点にある。怖がりすぎる必要はない。しかし、軽く見る病気でもない。

ハンタウイルスは、主にネズミなどのげっ歯類が保有するウイルスで、人間は感染したげっ歯類の尿、フン、唾液、巣材などに触れたり、それらを含む粉じんを吸い込んだりすることで感染する。CDCも、ハンタウイルスは主にげっ歯類から人へ広がる感染症だと説明している。(疾病対策センター)

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ハンタウイルス感染症には大きく二つある

ハンタウイルスが引き起こす病気は、大きく二つに分けられる。

一つは「ハンタウイルス肺症候群」。肺に強い障害を起こし、呼吸不全に進むことがある。もう一つは「腎症候性出血熱」で、こちらは腎臓の障害を中心に、発熱、出血傾向、ショックなどを起こす。厚生労働省検疫所FORTHも、ハンタウイルス感染症は「腎症候性出血熱」と「ハンタウイルス肺症候群」の二つの疾患を起こすと整理している。

地域によって、問題になる病型も違う。ハンタウイルス肺症候群は主に南北アメリカ大陸で報告される。一方、腎症候性出血熱は中国、韓国、北欧、東欧などユーラシア地域で多く見られる。

ここを混同すると、話が雑になる。ハンタウイルスと一口に言っても、地域、ウイルス種、症状、致命率は同じではない。

どうやって感染するのか

もっとも重要なのは、感染経路である。

ハンタウイルスは、基本的には空気感染する病気ではない。新型コロナのように、街中で人とすれ違っただけで次々に広がるタイプではない。

主な感染経路は、感染したネズミの尿やフンが乾燥し、それがほこりとして舞い上がり、人が吸い込むことだ。汚染された食品や水を口にすること、傷口や粘膜に触れること、まれにげっ歯類に咬まれることでも感染する。厚労省は、ハンタウイルス肺症候群の感染経路として、げっ歯類の排泄物を含む粉じんの吸入、汚染された食品や飲料水の摂取を挙げている。(厚生労働省)

つまり、リスクが高くなるのは、ネズミが入り込んだ小屋、倉庫、山小屋、空き家、納屋、キャンプ場、農作業場などである。長く閉め切られた場所を掃除するとき、いきなりほうきで掃いたり、掃除機をかけたりするのは危ない。汚染された粉じんを舞い上げるからだ。

人から人へうつるのか

ここは誤解が出やすい。

多くのハンタウイルスは、人から人へ感染しないと考えられている。ただし例外がある。南米で報告される「アンデスウイルス」では、濃厚接触を介した人から人への感染例が報告されている。WHOも、アンデスウイルスによる限定的な人から人への感染が、密接で長時間の接触を伴う場面で報告されていると説明している。

厚労省も、ハンタウイルスは基本的に人から人へ感染するものではないが、例外的にアンデスウイルスでは人から人への感染事例が報告されているとしている。(厚生労働省)

したがって、結論はこうなる。

普通のハンタウイルス感染症は、人から人へ広がる感染症として恐れる必要は低い。ただし、アンデスウイルスのような例外があるため、「絶対に人から人へ感染しない」と言い切るのも不正確である。

症状は風邪のように始まり、急に悪化することがある

ハンタウイルス肺症候群では、最初は発熱、筋肉痛、倦怠感、頭痛、めまい、悪寒、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などで始まる。初期症状だけを見ると、インフルエンザや胃腸炎と見分けにくい。CDCは、HPSの症状は感染したげっ歯類との接触から通常1〜8週間後に出ると説明している。(疾病対策センター)

問題はその後である。

初期症状の数日後、咳や息切れが出て、急速に呼吸状態が悪化することがある。肺に水がたまるような状態になり、集中治療が必要になる場合もある。厚労省は、ハンタウイルス肺症候群について、発熱、咳、筋肉痛、嘔吐、下痢などの後、急速に進行して呼吸不全を呈し、死亡することがあると説明している。(厚生労働省)

致命率も低くない。厚労省はハンタウイルス肺症候群の致命率を約40〜50%としており、CDCも呼吸器症状を発症したHPS患者の38%が死亡する可能性があるとしている。

これは、感染者数が多い病気ではない。しかし発症した場合の重さは、はっきり認識しておくべきだ。

日本ではどうなのか

日本で日常生活を送っている人が、ただちにハンタウイルスを過度に恐れる必要はない。

厚労省は、ハンタウイルス肺症候群について「日本国内では患者発生の報告はありません」としている。

一方で、腎症候性出血熱については、日本でも1960〜70年代に発生報告があったが、その後はみられていないとFORTHは説明している。(Forth)

つまり、日本国内での一般的なリスクは高くない。ただし、海外旅行、研究施設、ペットや野生げっ歯類との接触、ネズミが出る環境での清掃作業などでは注意が必要になる。

とくに南北アメリカ大陸、東アジア、北欧・東欧など、地域によってリスクの種類は変わる。渡航後に発熱、筋肉痛、咳、息苦しさなどが出た場合は、単なる風邪と決めつけず、渡航歴やネズミとの接触歴を医療機関に伝える必要がある。

予防の基本は「ネズミを避ける」「粉じんを舞い上げない」

ハンタウイルスには、広く使える特異的な治療薬や一般向けワクチンがあるわけではない。WHOは、ハンタウイルス感染症に対して認可された特異的な抗ウイルス治療やワクチンはなく、治療は呼吸、心臓、腎臓などの合併症管理を中心とする支持療法だと説明している。

だから予防が重要になる。

まず、家や倉庫にネズミを入れない。穴や隙間をふさぎ、食べ物を密閉し、ゴミを放置しない。ネズミのフンや尿を見つけた場合は、乾いたまま掃かない。掃除機も使わない。CDCも、感染したげっ歯類の尿、フン、巣材が舞い上がるとウイルスを吸い込む可能性があるため、げっ歯類との接触と排泄物への曝露を避けることが最善の予防策だとしている。

掃除する場合は、換気をし、手袋を使い、消毒液などで十分に湿らせてから拭き取る。FORTHも、汚染部位を掃除するときは、掃除機やほうきのようにほこりを巻き上げる器具を使わず、漂白剤で十分に湿らせてから拭き取る方法を示している。

怖がるより、感染経路を理解する

ハンタウイルスで一番よくないのは、二つの極端である。

一つは、「人から人へどんどん広がる新しいパンデミックだ」と騒ぐこと。これは不正確だ。

もう一つは、「日本では関係ない」と切り捨てること。これも雑である。

ハンタウイルスは、感染経路が比較的はっきりしている。主役は人ではなく、げっ歯類である。危険なのは、ネズミそのものだけではない。フンや尿が乾き、それを含んだほこりを吸い込むことだ。

だからこそ、予防策も具体的になる。

ネズミを家に入れない。食べ物を放置しない。倉庫や空き家を掃除するときは、乾いたまま掃かない。海外渡航後に発熱や息苦しさが出たら、渡航歴とげっ歯類への接触可能性を医師に伝える。

感染症は、名前だけで怖がると判断を誤る。

見るべきなのは、ウイルスの名前ではない。どこから来て、どう体に入り、何を避ければよいのかである。

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