30年前の事件は、誰にとって「過去」なのでしょうか。麻見和史『凍結事案捜査班 時の呪縛』は、妻を亡くした刑事・藤木靖彦が、少年の死を調べ直す警察小説です。事件の謎と、悲しみを抱えた刑事が捜査へ戻っていく過程。この二つから、題名にある「時」の意味を考えます。
ネタバレあり 以下、事件の展開と藤木の変化に触れます。
『時の呪縛』はどんな本?
『凍結事案捜査班 時の呪縛』は、麻見和史による警察小説。文春文庫から2023年8月2日に発売された、400ページの作品です。凍結事案(コールドケース)とは、長い間解決に至っていない事件のこと。藤木たちは、その過去を調べ直します。書籍情報
本作を選ぶ際に押さえておきたいのは、捜査の主役が、人生に大きな喪失を抱えた50代の刑事だという点です。過去の犯罪を調べ直す仕事と、主人公が自分の仕事を取り戻していく過程が並んで進みます。事件の仕掛けと人物の変化、その両方に関心のある人が検討したい一冊です。
あらすじ:意欲を失った刑事に任された30年前の事件
藤木靖彦は、妻をがんで亡くしてから捜査への気力を失っています。新たな配属先は、警視庁捜査一課の特命捜査対策室支援係。そこで任されたのが、30年前に立川で起きた小学4年生の遺体遺棄事件の再捜査です。子どもを失った父親の話を聞くことが、藤木を再び捜査へ動かしていきます。作品紹介
捜査資料の中では「30年前の事件」と整理されていても、遺族にはまだ終わっていない出来事です。一方の藤木も、妻を失った悲しみを抱えたまま働いている。この二人の置かれた状況を読むとき、同じ痛みだと簡単にまとめず、何を失い、何が未解決のままなのかを分けて考えたいところです。
藤木が遺族の話を聞くことは、仕事上の聞き取りであると同時に、他人のために自分が何をできるかを問い直す機会にもなります。未解決事件を扱う設定が、主人公の事情と結びついている点に、本作の特徴があります。
再捜査は、古い記録を読み返すだけでは終わらない
事件から長い時間がたてば、人の記憶も、関係者の暮らしも変わります。資料に残された事実を追うだけで、当時の出来事がそのまま戻ってくるわけではありません。何を確かめ直すのかという問題が、再捜査にはつきまといます。
藤木は休職を経て復職し、支援係の仲間と捜査に取り組みます。ところが、調べる途中で関係者の死が起きる。古い記録の中にあるはずの事件が、現在の出来事ともつながっていきます。捜査を再開すること自体が、まだ残っている問題を明るみに出していくのです。関連書評
本作を読む際には、「当時はどう見られていたのか」と「今になって何が分かったのか」を区別すると、再捜査の意味を追いやすくなります。後から得た情報を、30年前の捜査員も知っていたかのように扱わない。そうした読み方も、時間を隔てた事件を描く作品の楽しみになります。
ネタバレあり ここから、捜査中に見つかる具体的な手がかりに触れます。
タイムカプセルが持ち込む不穏さ
捜査の途中、昔のタイムカプセルから、保存液に漬けられた子どもの耳が見つかります。過去の事件を調べ直す物語が、この発見によって一段と不気味なものになります。関連書評
タイムカプセルといえば、将来の自分に思い出を渡すためのものを連想します。そこから犯罪に関わるものが出てくると、その時間の意味が変わります。懐かしさを期待して開けた過去に、解決していない問題が残されている。その対照が、この手がかりの不穏さを強めると考えられます。
タイムカプセルは年月を隔てるための道具ですが、ここでは年月を隔てても消えなかった犯罪を突きつけます。「時間がたった」ということが、何一つ解決を意味しない。その残酷さが、題名の「呪縛」と重なります。
ネタバレあり ここから、事件の決着と藤木の変化に触れます。
刑事の再生:事件が解けても、失った人は戻らない
藤木たちは30年前の事件を解決へ導きます。その捜査を通して、藤木自身も刑事として働く意欲を取り戻していく。この変化は、続編『凍結事案捜査班 時の残像』へと引き継がれます。続編の作品紹介
ここで読みたいのは、事件の解決と、喪失の解消が同じではないという点です。犯人を突き止めても、亡くなった人が帰ってくるわけではありません。藤木の変化を「悲しみを克服して元通りになる話」と決めつけるより、悲しみを抱えた人が、再び人のために働けるようになる過程として読むほうが、この設定の重みを考えられます。
「時の呪縛」という題名は、犯罪の秘密が長く伏せられていたことに加え、過去から離れられない人の時間も示しているように見えます。事件の真相を知ることと、その後を生きることは別です。藤木が仕事へ戻っていく姿には、その先の時間をどう過ごすかという問いが残ります。
再捜査ものと人物描写を楽しみたい人に
- 古い事件を新たな情報から調べ直す、再捜査ものが好きな人。
- 事件だけでなく、中年の刑事の仕事や生活にも関心がある人。
- 謎解きと並行して、遺族や捜査員の変化を読みたい人。
一方、子どもが被害を受ける犯罪や、身体の損壊に関わる描写が苦手な人は、購入前に出版社の試し読みなどで作風を確かめると選びやすくなります。本作のあらすじは穏やかな再出発だけを描いたものではなく、残酷な事件を扱っています。
続編を読むなら『時の残像』へ
本作の続編は『凍結事案捜査班 時の残像』です。文春文庫から2024年12月4日に発売されました。続編の出版社ページには前作を踏まえた主人公の状態が記されているため、結末を先に知りたくない場合は、本作を読み終えてから見るほうがよいでしょう。
まず『時の呪縛』で、藤木がどのように捜査へ戻っていくのかを読む。その後に続編へ進むと、同じ刑事が事件を重ねる意味も追えます。シリーズの入口として押さえたいのは、主人公が最初から意欲に満ちた人物として登場するわけではないことです。
広告・続編紹介
続編『時の残像』にもAudible版があります。朗読は岡井カツノリ。Audible版『時の残像』の作品情報を見る
紙で読む・Audibleで聴く
広告・書籍紹介
紹介するのは、麻見和史『凍結事案捜査班 時の呪縛』の文春文庫・紙版です。400ページ、ISBNは9784167920777。電子書籍や音声版とは形式が異なるので、希望する読み方に合う版をリンク先で確認してください。
Audible版
『凍結事案捜査班 時の呪縛』は、Audibleでも聴けます。朗読は岡井カツノリ。紙の本を読む時間とは別に、音声で物語を追いたい方はこちらから。
文責:ライターズラボ編集部。情報確認:2026年10月21日。
本記事はプロモーションを含みます。Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。


コメント